微かに朝告げの鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
カーテンごしの窓から、淡い光彩が入り込もうとしている。
外はもう、白々明けてきているらしい。
腕が気だるい感じで目を覚ますのは、割とご無沙汰な話だ。
人が見れば誤解する光景と、言えるんだろう。
しかし、それ相応のことをしておいて、誤解ってのは説得力に欠ける。
見たままの関係です、それもまた可笑しな話だ。
くつくつと涌いてくる笑いを堪えて、ぼんやりと遠くを見るのをやめた。
腕の中のぬくもりに、視線より強く意識を寄せる。
長い睫毛が影を落として、その瞳はまだ閉じられている。
気だるい腕を枕にして眠る寝顔。
シーツを染める長い深緑の髪。
ゆるく息をして上下する白い小さな肩。
あれだけ確かめたというのに、飽き足りることを俺は知らないらしい。
規則正しい呼吸で満たされるくらいにしか離れていないのに、余裕を感じられるのは
深い内側からこみ上げてくる底知れない熱のせいだろう。
―――溺れている。
はっきりとしたそんな言葉が頭を掠め深く息をついたのは、その事実に反証の余地も必要もないから。
こんなにも誰かを愛しいと思える自分がいる、そんなこと考えたこともなかった。
記憶の中のお前は、ゆるやかな毎日の中で劣化していって
より鮮明な形を留めたくとも不器用にしかなぞれず、都合の良いように補われていく。
そんなふうに歪になって、何処にもいなくなって、消えていってしまう。
人生で一番長く感じた時間の中ずっと、そのことばかり恐れていた。
そんな "いつか" に辿り着く為の "これから" を、闇を振り払うようにやめた。
来ないことにこしたことはない、でなければ遥かな "いつか" であればいい。
この存在に足りるものも代わるものも、俺にはきっと見つけられないだろうから。
願うなんてことなんてことが、柄にもないことぐらい解っている。
他人が聞けば笑い飛ばすような、そんな願いかもしれない。
それでも、願わずにはいられない。
目が覚めたら、"いつか" の話をしよう。
そうしたら "いつか" に辿り着く為の "これから" を。
互いの "これから" が交わり合うものになるように。
ただひたすらに願う。
この願いを叶える、約束に変えて。